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    当世Perfumeファン気質 その1

     冬の日の朝、ペテルブルクの下級官吏のようにコートを着込みSAT氏は立っていた。
     SAT氏の名誉のために言っておくがコートのスソが煤けているような貧相ななりでは決してない。パッツンの前髪と少し濃い顔立ちにモコモコとしたダッフルコート、暑苦しいマフラーをコートに突っ込んでいるのが少しダサいだけだ。ドストエフスキーが描くように家に帰れば口五月蝿い子供とヒステリックなカミさんがいて、直接家にも帰れず、毎日酒の力を借り、自説を繰り広げ、飲んだくれて酒場からつまみ出されるような醜態を繰り返しているわけでは決してない。泥酔状態で帰ったりしたら奥さんから家から閉め出され、100年ぶりの大雪が埼玉に降り積もり凍死するかもしれないのだ。
     SAT氏は凍える朝にコートのポケットに手を突っ込んで息子のHiroが家から出てくるのを待っていた。子供を代々木にある英語塾まで送り迎えする職務を妻のアヤノから申し付けられ、従順にその職務を遂行しようとする父の姿がそこにあった。ロクに外出の準備をしようともせず、うだうだしている息子を、「あっ、そうだ」とか言って首にマフラーをかけたり、思いつくままにせわしなく息子の身だしなみに余念がないだろう妻に対してムカついているわけではない。毎度のことなのに寒風の中、早目に出てしまった自分の従順さを呪っているのだ。
     何故、母になってしまった女という生き物はここまで息子の身支度にこだわるのか、手袋やマフラーなんてしなくてもいいじゃないか、その内、ウザイと息子に言われ無視されることになるだけなのに、小学5年生の息子が玄関のドアを開けるのをSAT氏は見つめていた。

     息子が家を出るのを見送ったアヤノの手がゆっくりと頭上に持ち上がった。鶴がクビをもたげてじっと遠くを見やるように静止した。片足をゆっくり上げてバランスをとる。ひそやかな笑みがアヤノの顔を覆った。昨日届いたばかりの東方神起のライブDVDをゆっくりと開ける儀式が、この後、待っているのだ。

     ノロノロと玄関から出てきた息子にSAT氏は乗れと身振りで示し、車の助手席に乗ったのを見てキーを入れた。

    uvs140309-001.jpg

     大音響でPerfumeの「edge」が流れる。SAT氏は大慌てでCDを止めようとするが止まらない。心拍数がリミッターに張り付く。少し震え制御がきかない左手でガチャガチャやり、やっとのことで音を止める。

     だれだっていつかは死んでしまうでしょ
     だったらそのまえにわたしの
     いちばん固くて尖った部分を
     ぶつけて see new world

     息子のHiroはマフラーと手袋を脱ぎ、フーッと溜息をついた。
    「Perfume聞きたいなら、流しててもいいよ」

     SAT氏は動悸をおさえ、少し咳払いをしながら車を発信させた。
     なんで息子は「edge」がPerfumeの曲だとわかったのだ。一般の人はPerfumeの曲だと気づく筈がないのに。息子のHiroがもぞもぞPerfumeのアルバムのケースを座席の下から何枚も取り出して眺めていた。SAT氏は恥辱を覚えた小学生のようにケースをむしりとって急いで収納ボックスに格納する。
     SAT氏はPerfumeというアイドルグループのファンクラブに加入している。Perfume関係の郵便物が家に届かないように、友達の住所を借りて秘密裏に行動してきた。動画や情報を見る時も自宅では見ずに近所のインターネットカフェに引きこもって見ている。少なくとも彼がファンだとか気づかれるような失態は犯していない筈だった。妻に話せば住宅ローンや教育費とかの話まで発展し、面倒臭くなるのは目に見えているし、K-POPアイドルの東方神起に走る妻と同列に見られたくないという、変な見栄や意地があった。音楽的にとか、ダンスの切れがとか、なんとか理屈をつけて彼なりの防衛線を張っていた。どちらにしても家庭の平和とは小さな嘘の積み重ねの上に構築されているのだ。Perfumeのライブを見るために有給をとるなんて口が裂けても言えない。だからライブに行く時は必ず背広姿で家を出る。

     息子のHiroはいつのまにか青いメタル色のPSPを取り出し、バカデカイ斧を振り回し恐竜を狩っている、「カタッ、カテーェ」、思ったよりカタいらしい、それでも執拗に右に左に斧をふるい、血しぶきを上げて恐竜が倒れる、食料にするため恐竜を切り裂く、モンハンというゲームによってもたらされる暫しの平和。

     スカイツリーの点景を正面に追いながら国道4号沿いにプリウスを走らせる。荒川の橋を渡る。真正面に日差しを浴びながら、冬の凍てついた空に鳥達が流れさる。もう北千住で首都高の標識が見える。代々木はもうすぐだ。

     ジョン・レノンが殺された1980年にデビューしたアイドルの天才、松田聖子が半年もたたない内に紅白出場まで昇りつめた時代も、小学生の彼にとってテレビの中の出来事でしかなかった。ロッキング・オンを斜め読みし、渋谷陽一の言をありがたがる普通の中高生時代を彼は送った。爆風スランプのCD買い、鏡の中で前髪を気にするミーハーで健全な青少年だった。その頃は、まさか自分がアイドルを好きになるとは思いもしなかった。40を過ぎ、建売の一戸建てを購入し、仕事的にも自分の上限が見え始めた頃、彼はPerfumeに出会った。きっかけはYouTubeのPerfumeの映像と音楽だ。彼の中のアイドルという概念を覆す音楽と映像、ただひたすらカッコいい。何に惹かれたのか、説明しようとすればする程、言葉がむなしくなる。
     ただ、そんな彼も東方神起にのめりこみ、海外公演まで行く妻のアヤノを理解できない。韓国では30歳までに2年間兵役に就く義務があり、もうじき兵役につくメンバーをずっと見ておきたいという妻の気持ちがわからないでもないが、息子をまきこんでの台湾や韓国に連れていく妻に少しいらついている自分がいる。春から始める国内ツアーはチケットさえ取れれば全部出席するのではと危惧している。徴兵制度がない時代に生まれ育った彼には男子であれば兵役につかざるを得ないヒロイズムと見送る側の女性の気持ちをうまく理解できない。朝鮮の不幸は4、5百年に一回の割合で侵略する日本が隣国にあることではなく、中国という巨大な国と陸続きであるために、常に中国の動向で左右されてきたことだと頭では理解できる。北朝鮮という存在そのものが中国に隣接してある国の実存する不幸の象徴だとは思うが、そこに思い入れはできない。彼と彼女の間にできた不確かで得体のしれない歪を持った日常が、時として彼をPerfumeへとかりたてるのかもしれない。

     どれほど長くいっしょにいても
     人は人を理解しない
     ひとりひとりの道が出会うことはない
     それなのにひそやかな音楽がそこに行き交う
     人間であることのくるしみをくるしみとしても
     くるしみがそのままでそこからの解放でもあるような音楽
     その音楽はこの身体に覆われ密やかに息づいている
     なにもかがこの身体を透して音楽している
                          (高橋悠治)

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    2014.03.09 | コメント(0) | トラックバック(0) | Perfume

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